本をつくる その4
2011年11月18日
 

先月末、新聞で「フィギュアたちの人生」というタイトルの
展覧会の告知を見つけた。

展覧会の場所は
滋賀県のボーダレスアートミュージアム NO-MA 。

NO-MAは、障害のある方の作品の展示を中心とした
公的ミュージアムで、全国でも例がない美術館だそうだ。

今回の企画展では、フィギュアをテーマに
数名の作家さんの作品が展示されていたのだけど、
中でも僕は新聞に掲載されていた
勝部翔太さんの作品に強く心惹かれた。

(以下、新聞からの抜粋) 

───────────────────────────

軽度自閉症がある島根県在住の勝部翔太さんの「無題」は、
パンの袋を閉じるビニール付き針金で作った
戦士やロボット風のヒーロー200体を並べた作品。

1体3センチほどだが姿形が異なり、
緻密な造形に圧倒される。

───────────────────────────

これは… どこかで聞いた話と同じような匂いがするぞ…。
しかも、なんかキラキラしていてすごくカッコイイじゃないか!

とにかくこれは一度見てみたい、という事で
休みの日にNO-MA に足を運んだ。

   ★     ★     ★

昭和初期の町家を改装したNO-MAの門をくぐり建物の中に入ると、
目当てのその作品は一番最初に展示されていた。

うわぁ… これか… スゲーちっちゃくて… カッコイイ…(!)

パッと見た瞬間、まずはその小ささに驚いた。
すごく小さくて、素直にすごくカッコイイのだ。

大量に並んでいる凄みもあるし、
グッと近寄ると1体1体に造形物としての「力」をすごく感じる。

いやぁこれはすごいなぁ…とじっくりと眺めていると
受付のお姉さんが

「今、作家本人が来られていて、二階で作品を作っていますよ」

と知らせてくれた。

なんと、たまたま行ったその日のその時間に
偶然にも作家本人と遭遇(すごい偶然…)。

人形を作る様子を目の前で見せてもらって、
少しだけ話も聞くことができた。

現在20歳の勝部翔太さんは、小学1年の頃に
お母さんの好物の「ナスのからし漬け」の
パッケージに巻かれていた
「アルタイ」(アルミ帯でカバーされた針金)を
何気なくひねる中で、人形作りに目覚めたそうだ。

その後、素材としてまとめて売られている
アルタイの束を購入し作品が増殖。

素朴なヒト型だった人形は、次第にプロポーションが進化し
装飾をまとい、現在の形に至った…ということらしい。

(ちなみに、作ったものには執着がなく、
ある程度数がまとまると
周りの人にプレゼントしてしまうのだそうです。

今回、大量に作品を展示できたのは
彼が通う福祉施設のスタッフが
密かに作品をストックしていたおかげ、とのこと。)

   ★     ★     ★

なんかねぇ、彼の話を聞いていると
こちらの周波数と重なる部分も多く、
自分の内面がワッ!と熱くなるのを感じたね。僕は。

ビニール付きの針金を
ひねって重ねる事で得られる彫塑的な造形感や  
1体あたり5分くらいで作れるスピード感、
そして完成品のヌラヌラ&キラキラ光る独特の質感などを見ていると、
あぁ、彼は自分だけのモノの作り方に「出会えた」人なんだな…と
しみじみ思った。

眉毛手入れ用の小さなハサミを器用に使いこなす様子も
「モノ作りの動き」として全く無駄がなく、
なるほど、ここに行き着いたんだな…と思わせる強い説得力を持っていた。

この文章がアップされる頃には展覧会は終わっていて、
現時点では今後どこで彼の作品が見れるか分からないけれど、
このサイトを見てくれているカミロボ少年たちにも
ぜひ実物を見てほしいと思った。

モノ作りの楽しさがギュッと詰まった魅力的な作品で
とても感動しました。

Copyright(C)2003-2020 Tomohiro Yasui / butterfly-stroke.inc All rights Reserved.