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二十代の頃、山の上に建つ借家に住んでいた。
そこは塀で囲まれた大きな山荘で、
日本庭園の周りに一軒家と離れが何件か建っていて、
ぼくはそこの離れを借りていた。
変わった物件だったけど、普通に不動産屋で見つけた家だった。
表に出ると市内が一望できて夜景もきれいだった。
畑と竹薮に囲まれていて、
宅配便の人も迷うような所だった。
それまでの人生で見た事もないような
巨大なクモやムカデが平気で出た。
イノシシやタヌキも平気で出た。
最初はそこから通勤していたが、
フリーになってからもそのまま住んでいた。
★ ★ ★
ある日、一匹の黒猫がうろうろしているのを見た。
黒猫は縁起が悪い、と漠然と刷り込まれていたので
最初はイヤだなぁと思っていたのだが、
何度か見かけるうちに、ちょっとエサをあげたりし始めたら
だんだん会わない方が寂しいと思うようになってきた。
ある日、深夜に仕事をしていたら、
作業部屋の小窓をガリガリ引っ掻く音がして、
ニャーニャーと鳴き声が聞こえた。
窓を開けたら例の黒猫が入ってきた。
仕方がないので、次の日の晩メシにとっておいた
シャケの切り身を少し分けてやった。
それから毎日、黒猫が訪ねてくるようになった。
すごくなつっこいから「ナツコ」と名付けた。
自分の食費も削るような暮らしをしていたけど、
ナツコのためにキャットフードを買うようになった。
山なので、冬の夜はマジで冷え込んだ。
ろくな暖房器具も持っていなかったので
何重にも重ね着しながら朝方まで作業していたら、
いつものようにナツコが来て、
エサを食べた後も帰らずに
作業中ずっとヒザの上に乗ってくれていた事があった。
ある日、ナツコがもう一匹の黒猫を連れてきた。
こっちはちょっと警戒心が強かったので
警戒心の強い「ケイコ」と名付けた。
しばらくしたら、またもう一匹、別の黒猫がついてきた。
夕焼けみたいなオレンジ色の目をしていたので
夕焼けの「夕子」と名付けた。
それからしばらく、レギュラーのナツコと
たまについてくるケイコや夕子との生活が続いた。

そして季節が変わった。
同じ敷地に、創作家具を作ってるヤツとか、
デザイナーで小説書いてるヤツなんかが
引っ越して来て、ずいぶんと賑やかになった。
真っ当な暮らしをしていない者同士仲良くなって、
休憩時間に縁側でお茶したり
夜な夜な酒を酌み交わしたりして、生活が変わったと感じた。
気がついたら、いつの頃からか
ナツコたちは来なくなっていた。
最後のキャットフードの袋は
ほとんど新品のまま埃をかぶっていた。
★ ★ ★
後日、ある人に言われた。
「黒猫は寂しい人の所に来るんだよ」と。
なるほど。
当時のぼくは、普通より3倍の
寂しさオーラを出していたのか、と思うと
なんだか笑えてきた。
雑誌「Quanto」2007年11月号掲載 |